女神が三線に託した想い

※走り書きです

著書「古三線に魅せられて」の中で私は
王朝当時、刀をはじめとした武力や思想の多くを
三線に込めたという話を記録させていただいた
実はそれとはもう一つ興味深い話があるのだが
それを本の中にも収めようと考えた しかし、
あまりに話が大きくなってしまうことと
構成上の問題の他に資金(?)のこともあり
省かざるをえなかったのだった
いつか書籍としてまとめようとも思っていたが
今はどうやらその必要も無くなったと感じる
簡単に纏めてみたい

今からもう10年以上も前のこと
私は三線と女神についての資料を集めていた
それはある三線のことがきっかけとなった
あるノロ御殿に祀られていた三線であり
與那城の細身、馬の皮張りで山羊毛に包まれていた
なぜにノロ御殿所持なのかという点で
私はあちこちの関係者に聞いたが
納得するような意見を聞くことはできなかった
世間で賑わうような
海 空 島酒を片手に歌う
陽気な三線のイメージとは違う
全く眞反対な霊的な意味を込めている気がして
それが何なのかの手がかりさえなく
私は休みの日も落ち着かず
日々悶々とした毎日を過ごしていた
そんなある日のこと
海外の某孤島からシャーマンが来るとの情報を聞きつけ
その無料イベントに参加する機会を得たのだった
ピラミッド型のテントに僅か10名はいただろうか
シャーマンは霊媒の前に祈りとダンスをするのだが
それはまさにイザイホーの舞いと似ており
鳥肌が立つほど感動したのを覚えている
'質問というのは実は既に
皆さんの中に答えはあるのです
ですから私はヒントを投げますが
明確なものは皆さんの中で見つけてください
それが条件となります' 
続いてシャーマンに対し 一人一人質問が始まった
その質問に雇われの通訳を通して回答が与えられる
多くは個人的なもので何の興味もなく
正直のところ、私は懐疑的であった
暫くしてようやっと私の番が回ってきた
唐突にも彼女にこう尋ねてみた
'沖縄の伝統楽器三線について教えて欲しい'
するとシャーマンは間髪を入れずにこう伝えた
'それはそれは実にユニークな話です
男性的なエネルギーと女性的なエネルギーの
両方を持っている楽器です
男性的なエネルギー 
それは武器や争いのようです...'
その言葉を聞いて身震いした
既に刀と三線との関係は
自身の研究の中で明確になっていたからだった
シャーマンは続けた
'女性的なエネルギー それは霊力です
ですがある時代に、それは抑えられてしまった
その頃からこの島の思想や
社会構造も変わっていったようです'
私は兼ねてから推測していた疑問が沸き上がり
押さえられずにこう尋ねてみた
'当時の神女が三線製作に携わっていたことはありましたか?'

'はい。直接手を加えたのではありませんが
助言を与えていたようです'

'ありがとう。' と伝えて質問を切り上げた
それ以上聞こうとは思わなかった
何年も想定しては切り捨ててきた疑問の
点と点が一本に繋がったと感じ
答えを求める必要がなくなった
言われた通り 答えはすでに胸にあったのだった
つまり要約するとこういうことであろう

この島が女性中心となっていた時代
祈女たちが各村々を仕切っていた
女たちは働きもので 男は力仕事に勤しんだ
争いは少なく 例え問題が起きても
女たちが話し合い解決した
雨が降らなければ 祈女は豊作を神に祈り
それは成就されるのであった
贅沢するものもなく 厄介な問題もない
静かな時が淡々と流れる
霊的な世界が常に隣り合わせ
事ある毎に人々は祈った
食べる時も 起きた後に眠る前に 
働く前 海に行く前 誕生する前に 死ぬ前に
常に祈りが中心となっていた
神 それは空であり 地であり
海 植物 動物 空気... 
見えるもの見えないものも含める
周りのもの全てを尊う暮らし
海外からの漂流船があれば
争うこともなく手厚く助けたのだった
しかし、一部の男たちの中で
権力を持ちたいというものが現れた
彼らは巧妙に話術を使い 
男性の権力を徐々に上へと登らせていった
巧妙な話は全て不安を材料にしていた
実に戦略的なものである
まるで古い神話にある物語の様に
不安に根差したもの 
生を尊うことよりも
武力こそが恐れに対抗できるものであるように
未だ来るはずもない
恐ろしい空想の未来を予言するものであった
それを食い止めるには男性の力が必要不可欠だと
戦略したのである
祈女たちはそんな企てでたることも知らずに
少しずつ信仰心を揺るがされていった
それが尚巴志の南山・北山・中山の三国に分裂していた琉球の統一よりも遥か昔の
琉球の戦国期と呼ばれる時代の始まりである
戦国時代に多くの崇拝制度を破壊された
今現在の古い遺跡のほとんどはこの時に
焼き尽くされ 殺害された 正に神の国の消滅
しかしその勢力の陰で一部の力を持つノロたちが
密かに信仰を守るために久高島に身を潜めた

三線は三神である と記されている
'三線ノ説'はこの頃に仕上げられていた
琉球の統一の頃 理解ある男たちは
ノロの助言を受け入れ 芸術を重んじ
三線を精神向上のための楽器に
また神器としての役割も持たせた
男たちの権力への欲望を制御する役割でもあった
刀の形状を三線に取り入れたのがそれだ
※著書「古三線に魅せられて」参照
ノロが恐れたのは 欲望が故の国の崩壊と
人としての本来の在り方を失っていくことであった
戦国時代 そうして無惨に崩壊したからだ
古典音楽は長い息継ぎを要するが
長くゆったりとした曲調で
おもろを編集して書き留めさせたには訳がある
争いの時代の前は 人々はゆったりと生きた
言葉に加え 身体で感じるイメージとの
バランスが良く取れており 直感的に生きていた
しかし、バランスが崩れると息は浅くなり
人々はイライラし始める
祈りに似た長い音楽 
そして深い呼吸を要するように作り
身体と精神のバランスを取るようにしたのが
今日の宮廷音楽の始まりである
そして三線の各所の作りやその形状の始まりには
祈女の助言が必要不可欠であった
人が人でなくなってしまうことを
ノロは何よりも恐れたのであった

三つの神 天と地の結びつき
そして武力を三線の造りの中に納めた
日々の暮らしの中で 芸術を通し
瞬間瞬間 心を広げながら あるがままで
愛情を持って生きていくこと
自尊心を見失うことなく 恐れず 
中今 今を十分に生きる
彼女たちの願いはこうして何世紀にも渡り
人々に愛される楽器と芸能として継承されている

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