三線の棹部の彫り込みは通常 爪裏 または芯に銘を入れる以外には無いとされているのが一般である。
例えば鳩胸、ましては天に彫り込みがあるなど、常識はずれで、そんな三線があるとは誰も想像がつかないだろう。
だが一度だけ、私は驚くべき三線を拝見したことがあった。
それは南米から一時、帰沖したものであった。
戦前に沖縄から南米に移住したウチナーン人が持っていたものであり、戦火を逃れた奇跡的な一丁であった。
現在の持ち主は日系3世の方で、形見わけでいただいたのだが古い三線のため塗り替えをしたいとのことであった。
ケースから取り出されたその三線は大與那城型で、驚いたことに、棹全体に星型の彫り込みが無数にあったのだ!
塗りもオリジナルのもので古いため、当時からこのような彫り込みがあったということに驚愕した。
大きく開いた天の表と裏面に広がる星型は無数にあり、それは天の川をイメージして彫刻されたものと直ぐにわかったのだった。
これを見て私は持ち主さんに、くれぐれも塗り替えはせず、現状を維持していただくようにと念を押したのであった。
それから10年も経って、あの三線はまだあの時のままだろうかと気掛かりになり、南米に手紙を送った。
すると、別の日系人と物々交換をしたので、今ではどうなっているかはわからない との返信であった。その三線が現状維持されていることを祈るばかりである。
そして、この古三線が残されていることの意味深さとは、私たち現代人が想像もつかないような三線の造形美が、他にもまだまだ存在していたという点である。
それを思うと私はあのシェイクスピアの有名なセリフが頭に響いてくるのである。
「ホレイショー、天と地の間にはお前の哲学では思いも寄らない出来事がまだまだあるぞ。」
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