訪問時代の思い出

もう10年以上も前のことである
'三線の修理をお願いしたいので取りに来て欲しい'
という依頼の電話が入った。
私は、いつものように女性アルバイトさんにお願いをして、その修理品を預かりに行ってもらった。
しばらくして、アルバイトさんから電話が入り、「すいませんが、怖くて入れません」とのことだった。
話を聞くと、インターホンを押しても誰も出てこない、そして中から大声で「入ってください!」という男性の声が響いているので、怖いのだという。
私は交代してそのご自宅まで向かうことになった。
インターホンを押すとやはり誰も出てくることはない。しかし遠くで男性の「入ってください!」という叫びが聞こえる。
入ってくださいの声に扉を開き、おじゃまします!と声をかけると、部屋の奥から男性が「どうぞ!奥にいますのでこちらに来てください!」と必死に呼びかけてくる。
奥に行ってみると、部屋の中には大きな医療用ベッドがあり、そこに体の不自由な男性が寝たきりになられていた。
男性は自由がきかないために、三線の修理を電話で依頼し取りに来てもらったのだと、私はようやく理解したのだった。
「しばらく前に脳梗塞で倒れましてね」と男性。
「やっと腕が動くようになったので、壊れた三線を修理して、それでリハビリをしようとおもってるのです」。
その後、預かりの三線を修理した。破れ防止のために人工皮にして完動品にし、サービス品と一緒にお届けしたのだった。
三線を学ぶことも、必要とする現場も、こんなにも多くの事情があるのだなと感じ、私は大変な責任を感じたのだった。

そのニ 

また訪問時代のことである。
高齢の女性のお宅へ修理の引取り依頼があった。
そこは大変古いお屋敷で、ご主人が亡くなってからもう10年以上三線を放置しているという。
私はそれを預かってお邪魔しようとしたら、「兄さんなんで、ゆっくりして行きなさい。ちょうどポーポーも焼いたから食べていって」と、予想外のかめーかめー攻撃にあった。
これにはなかなか首を横にふることはできない。私は それでは少しだけ...とくわっちーすることになった。
食べ終わり、そろそろお邪魔します と声をかけると、また台所から「なんで、ポークも焼いたし卵焼きも焼いたから食べて行きなさい」と、またもカメーカメー攻撃にあった。
お皿に入れて準備までしてくれている。これにはまた流石に、首を横にふれなかった。。
急いで口にかけこむと、ごちそうさまです!と後にしたのだった。
家に帰ってその放置していたという三線を取り出し、胴を開けて中を確認すると、、
ババーッと黒いものが飛び出したかと思うと、なんとあのゴキちゃんが数匹チーガの中から飛び出して、私はそのままひっくり返ったのであった。。
ですから、今でもポーポーをみると、あの飛び出してきた時の思い出が蘇るのであります。。




胴巻屋

選りすぐりのヴィンテージ〜名作三線と、手作りの胴巻を扱っています。著書「古三線に魅せられて」

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